Uncategorized

6年前のシステムに空いた穴と、戦う人々|また私か日記 #12

■ 判定書が出ない? 現場からのSOS

朝一番、いつものようにコーヒーに手を伸ばそうとした瞬間、検査部門のリーダーから慌ただしい電話が入った。

「なんでも屋ちゃん! 判定システムでエラーが出て、今日の出荷分の検査成績書(判定書)が出力できへんねん! 至急見てくれへん!?」

デスクに駆け戻り、該当のプログラムとデータベースを開く。 画面のヘッダーには、どこか誇らしげにこう記されていた。

『出荷検査判定システム v1.0(作成日:2020年)』

「6年前……! 私がこの会社に来て最初に作った、思い出深いシステムじゃないか……」

ソースコードを追いかけるうちに、私は額に嫌な汗が伝うのを感じた。 バグではない。システムの「前提条件」そのものが、現在の工場と噛み合わなくなっていたのだ。

6年前の稼働当初、うちの検査は「1ロットにつき〇個」という抜き取り検査が基本だった。システムも「指定された数のサンプルデータが揃ったら、範囲(平均値・標準偏差など)で一括判定して判定書を作る」というロジックでガチガチに固められていたのだ。

しかし近年、製品の高度化に伴い一部のラインで不良率が上昇。品質保証のために「全数検査」を行う品種がジワジワと増えていた。

データ件数が抜き取りの数十倍〜数百倍に膨れ上がり、1個ごとにリアルタイム判定しながら、最後には従来の「範囲判定」と「全数判定」を両方処理しなければならない。 抜き取り仕様で作られた6年前のシステムに、全数検査の大量データがなだれ込み、ついにパンクしたのだった。

■ 「抜本改修」の決意

「まあ、なんですの? 画面を凝視したまま、魂が抜け落ちていらっしゃいますわ」

デスクの横を通りかかった総務ちゃんが、優雅にお茶を飲みながら覗き込んできた。

「総務ちゃん……6年前に作った検査システム、覚えてますか?」

「ええ、覚えておりますわよ! 抜き取りデータを打ち込めば、ポンと綺麗な判定書を出してくれる優れものですわね」

「それです。当時は『抜き取り検査』専用で組んでいたんですが、最近は不良率対策で『全数検査』の品種が増えていまして……。処理件数の桁が変わった上に、従来通りの範囲判定と、1個ずつの全数判定がごちゃ混ぜになって、システムが悲鳴をあげています」

「まあ! 例えるなら、『たまに来るお客様(抜き取り)用の静かなサロン』として作ったお部屋に、『満員電車の乗客(全数)』が押し寄せて大混乱……ということですの?」

「恐ろしいほどわかりやすい例えです……。つぎはぎの修正じゃもう無理です。判定ロジックとデータベース設計を基礎から見直す『抜本改修』をやるしかありません」

■ 製造 vs 検査! 判定基準を巡るバトル

私はすぐに、製造部門の代表(現場ちゃん)と、検査部門の担当者を会議室に呼び出した。 「範囲判定」と「全数判定」をどう同じシステム内で共存させるか、ルールを決め直すためだ。

会議室の空気は、最初からバチバチと火花が散っていた。

「なんでも屋ちゃん、事情は分かったけどな?」 現場ちゃんが腕を組んで言った。

「全数検査にするのはええけど、判定を厳しくしすぎんといてな! 1個でもあやしい数値が出た瞬間にライン全体が止まるような仕様にされたら、現場の生産目標が吹き飛ぶで!」

すかさず検査部門が反論する。 「現場ちゃん、近年の不良率上昇を抑えるための全数検査ですよ!? 従来の抜き取りみたいな“甘めの範囲判定”でスルーして、後工程で不良が出たら誰が責任取るんですか!」

「そんなん分かってるけど! 全部止めてたら製品出荷できへんやんか!」

(出た……「品質重視の検査」と「生産量重視の現場」による永遠の衝突……!)

板挟みになった私は、ホワイトボードに大きく図を描いた。

「おふたりとも、落ち着いてください! どっちの言い分も正しいです。だから今回のシステム再構築では、『自動振り分けロジック』を組み込みます!」

「自動振り分け……?」

「はい。従来通りの『抜き取り品種(範囲判定)』と、新しい『全数検査品種(個片判定)』を、品番マスターと連動させてシステムが自動で判定ロジックを切り替えるようにします。さらに、全数検査でグレーゾーンのデータが出た場合は、ラインを止めずに『再検査用フラグ』だけ立てて退避レーンへ流す仕様にします!」

現場ちゃんと検査担当者が顔を見合わせる。

「……なるほど。それなら全数検査でもラインを止めずに済むし、怪しい製品は確実にブロックできるな」

「うん、判定書も品番に応じて『範囲判定書』と『全数判定データシート』が自動で切り替わるなら、現場の入力手間も減りますね」

衝突していた両者の意見が、システム設計の工夫でスッと噛み合った瞬間だった。

■ 6年目のサバイバル

「——ほう。6年前の自分のシステムを逃げずに受け止め、抜本改修の合意まで取り付けたか」

会議室のドアが開き、若くてイケイケな課長がひょっこり顔を出した。

「課長……見ていましたか。稼働当時の『抜き取り検査だけ』という前提に縛られていて、現場の変化に対応できていませんでした」

「気にすんなって! 6年前から工場の生産体制も、求められる品質レベルも変わったってことだ。現場が進化してるからこそ、システムの抜本改修が必要になる。お前が成長させてる証拠だよ」

珍しく良いことを言う課長に、少し胸が熱くなる。

「……ありがとうございます、課長。さっそくデータベースの再設計に入ります!」

「おう、頼んだぞ! あ、ちなみに所長が『全数検査のデータをリアルタイム集計して、ついでにAIで不良の予兆検知もできないか?』って言ってたから、それも仕様に入れといて〜!」

「……はい? AI?? ちょっと待ってください課長!! 抜本改修だけでお腹いっぱいなんですけど!!」

爽やかな笑顔で去っていく課長の背中にツッコミを入れつつ、総務ちゃんがフフッと微笑む。

「ふふ、満員電車を整理したと思ったら、今度は線路にリニアモーターカーを走らせろと言われたようなものですわね」

「上手いこと言わなくていいです総務ちゃん!……ハァ、設計書書き直してきます!」

時代の変化とともに、工場の運用も、システムも、そして情シスもアップデートし続ける。 過去の自分が作ったシステムを超えるためのサバイバルは、まだまだ終わりそうにない。

(……また私か。)

-Uncategorized